楽天で電子書籍販売しようとして諦めた話
・楽天Koboライティングライフでは電子書籍出版時のロイヤリティ率が最大70%と高く、楽天市場の「お買い物マラソン」と連携することで購入促進の追い風もある。
・しかし対応フォーマットはepub3限定でレイアウト崩れや厳しいコンテンツ審査が頻発し、場合によっては専用レイアウトで書き直すか、コストの高いパブファンセルフ経由のPOD出版を検討せざるを得なく、個人的には断念した。
目次
楽天でも電子書籍出せる
Kindle(KDP)が個人でも電子書籍・紙の本を出版できるというのは有名な話だが、楽天でも電子書籍限定で同様のことは可能だ。
楽天Koboライティングライフ
理屈上はまあまあ旨味はある
楽天市場連携
楽天といえば、楽天市場で定期的に開催される「お買い物マラソン」が有名だが、あれはどういう仕組かというと
- エントリー後に1ショップで1000円以上買うと、ポイントが+1倍される(最大+10倍)
- この倍率は期間中に買った合計金額に遡って適用される
- 例えば、3万円のものを買ったとして、あとから1000円のショップ×2を買うと、「32000円のポイント×3倍」となる
- カウント対象は幅広く、Koboも1ショップとしてカウントされる
つまり、「お買い物マラソンのついでに倍率を上げるために本を買う」という購入側のアクションは十分考えやすい(自分もよくやっている)。to Bで結構大事になる領収書の発行も、楽天市場のスキームでできるのでしっかりしている。
ロイヤリティが70%とかなり高い
こちらのページによると、2025年7月現在以下のような設定になっている
> 販売価格(2015年10/1~は「本体価格」) ロイヤリティレート
299円~26,000円 70%
80円~298円 45%
厳密な計算は受け取ったことないので不明だが、例えば税込みで2200円の本があるとしたら、
- 2200÷1.1 = 2000(消費税抜き計算)
- 2000×0.7 = 1400
と1400円も受け取れることになる。これはKindleのロイヤリティよりも全然多い。KDPの場合は、35%のロイヤリティと、70%のロイヤリティの2つのオプションがあるが、70%はKindle専売になってしまう(その他にもいろいろ条件ある)ので、実質35%のオプションになってしまう。この持ってかれ具合は著者界隈では有名な話で、先日も以下のようなポストがバズっていた。
Kindleは売上の65%もっていかれるので
本買ってもいいなと思ってくれる人がkindleで落ち着いてしまうと、まあまあ損失でかい https://t.co/28lkMJIg8o— ひの (@nanasamib) July 6, 2025
しかもこれは税抜き計算をしたあとからの35%なので、先程の2200円の例でいったら、
- 2200÷1.1×0.35 = 700
Kindleは700円しか還元されない。2200円の本に対して、200円は政府や自治体に、700円は著者に、1300円はAmazonが配分されるという、まあどこぞの悪代官もびっくりな年貢っぷりである。こう考えていくと楽天の70%はかなり旨味がある。
楽天は電子書籍のフォーマットはepubだけ
しかし、その一方で楽天が対応している電子書籍はフォーマットは限定的である。Kindleの場合は、「プリントレプリカ」という出版方法を使うことで、PDFのフォーマットをそのまま崩さずに発行できる。これはKindle Createという専用のアプリを使えば、PDFから簡単にコンバートできる。
一方の楽天は、2025年7月現在はepub3のみの対応となっている。このepubというフォーマットがかなりの曲者で、PDFのレイアウトを保ったまま簡単に変換するというのがかなり厳しい。もちろん変換自体は専用のアプリを使えばできるのだが、少しレイアウトの凝った本だと(自分だとAI論文年鑑)、大幅にレイアウトが崩れたものができる。
PDFを画像に変換してepub化
苦し紛れの対応だが、epub化の対応工数を減らして変換しようとすると、
- PDFの画像全体を一回pdfを画像でラスタライズ(PythonのPyMuPDFなどで可能)
- この際、楽天の要件であるepubが100MB以内に収まるように、ラスタライズのDPIをチューニングする
- 画像だけのPDFを作る
- そのPDFからEPUBを作成(Calibreというフリーソフトで可能)
というフローになる。「PDFを画像変換したらテキスト選択できないでしょ」「ラスタライズしたら拡大したときボケボケになるでしょ」みたいなツッコミも大いにあるのだが、商用ソフトのAdobeのコミュニティサイトですら、「一回画像にラスタライズする」という対応が当たり前のように行われている。この業界の常識なのかはよくわからない。
一応、上記のフローでepub自体の作成は成功し、レイアウト確認したところ崩れていなかった。楽天の入稿テストにも通り、審査まではいけた(いくだけは)。この際の工夫は、
- Calibreのepub出力のepubのバージョンを2にする(3にするとなにかタグが不足して入稿時に失敗する)
というだけ。画像だけのPDFが2GB近くなることもあるが、epubへの変換時に圧縮がかかるので実際は100MB近いepubになる。
審査が厳しく対応工数が割に合わない
実際に自分の以下の3冊を審査に通してみた
- AI論文年鑑2025
- Terraformで学ぶAWS1巻
- はじめてのDocker&SageMaker
結論から言うと、3冊みんな審査に落ちた
ちなみに、どの本もKindle(KDP)の審査ではすべて通っている。
AIで作成したものが禁止されている
対象本:「AI論文年鑑2025」
こちらのコンテンツポリシー、禁止事項を見ると以下のように明確に禁止されている。
・AIで作成したものなど、著者本人の制作物でないもの
「AIで作ったものとはいえ本人の制作物でしょ」みたいなツッコミもできなくはないが、ここの線引はプラットフォーム側の自由なので、致し方ない。
外部サイトなどへの誘導をする目的と誤認されてひっかかる
対象本:「Terraformで学ぶAWS1巻」「はじめてのDocker&SageMaker」
同じくコンテンツポリシー、禁止事項を見ると以下のように書かれている。
(9) 勧誘・誘導・宣伝目的での利用
・外部サイトなどへの誘導をする目的で利用するもの
これだけ見ると「スパム対策でしょ」と思いがちだが、実際に審査に出してみると、相当に厳しい具体要件があった(要約)。
- 以下の項目は奥付のみ記載可能で、本文や内容紹介欄には記載が禁止
- 外部サイト/URLの記載(QRコードを含む)
- 外部サイトや連絡先を示唆する表現
実際は、利便性を高めるためにおいた紙の本上のQRコードの画像が、機械チェックに引っかかったのだと思うが、本文に外部URLを書くなはかなり厳しい気がする。奥付に参考文献リストでURLを書くというのも無理がある。
どこかから引用するにはURLの記載が必要で、現代の本を書こうとするとWebサイトからの引用は避けて通れなく、これを本文に書くなと言われると何もかけなくなってしまう。
実務的には「本文中のQRコードは消せばいい」みたいな考え方もなくはないが、プラットフォーム別にコンテンツを個別適用していくと、どんどん制作工数が増えてしまい、売れるかどうかわからないプラットフォーム相手の初手としては割に合わない。
文字潰れが発生している
対象本:「Terraformで学ぶAWS1巻」「はじめてのDocker&SageMaker」
ざっくりいうと、「文字サイズによっては、画面内の見切れが発生したり、若干文字がつぶれて表示されるから修正して」とのこと
A5やA4の紙の本を無理やりレイアウトを保ったまま変換したから、スマホの閲覧で無理があるよという理屈かもしれない。ただここを弄り始めると本文そのものを書き直さないといけないため、修正工数としては新たに本を書き直すのに近いものになってしまう。先程と同様で、売れるかどうかわからないプラットフォーム相手の初手としては割に合わない。
楽天で通したいならそれ用のレイアウトで書き直さないと厳しいのではないか
自分はここまで楽天に対する思い入れはないが、もしこれに通したいなら専用のフォーマットで書き直さないと厳しいのではないだろうか。おそらくこれに通るのは、文庫・新書といったURLがなく、テキストだけのかなりプリミティブな本だと思われる。ビジネス書もギリギリいけるだろうが、URLどうするんだ問題はわからない。少なくとも自分がやっているジャンルだとかなり厳しい。
パブファンセルフはコストが高い
「どうしても楽天に載せたい」というのなら、POD出版のパブファンセルフを使うのが選択肢として挙げられる。旧名はインプレスの「Next Publishing」というサービスだったが、売却されて名称が変わった。これは紙の本のオンデマンド印刷で、Amazonと楽天の両方に対応している。
Kindleの場合は、プラットフォーム側でPOD(プリントオンデマンド)に対応しており、パブファンセルフよりも公式のほうが手数料が安い。
楽天の場合は公式側でPODのサービスを提供しておらず、在庫管理の手間なしで紙の本を出版しようとすると、現状これ一択なのではないかと思う(他にいいのがあったらぜひ教えてほしい)。しかし、これのコストは当然一定かかってくる。
例えば、A5で150Pでモノクロの本を出版しようとしたときを考える。著者へのロイヤリティをKDPとパブファンセルフ(Amazon・楽天)を希望小売価格別(税別)で比較する。
希望小売価格(税別) | KDP | パブファンセルフ |
---|---|---|
1500 | 394 | 201 |
2000 | 694 | 481 |
2500 | 994 | 761 |
3000 | 1294 | 1041 |
パブファンセルフのほうが、中間に1個入ってる分ロイヤリティは下がる傾向にある。これは印刷代や手数料を引いた純粋な著者へのフィーである。楽天への配信はKDP公式ではできないから、ここへの配信はパブファンの独占市場といえよう。
冒頭の「なぜ楽天を使おうとしたのか」という点に立ち返れば、「電子で70%というロイヤリティを享受できるから」が大きな理由としてあった。しかし、この表を見るとせいぜいロイヤリティが20~30%程度で(紙の本という特殊な事情にはなっているが)、もとの目的が達成されているかというと「そうはなってないだろう」ということになる。戦術的にはありでも、戦略的にはあまり優秀な策とはいえない。
楽天・KDP比較まとめ
楽天とKDPの比較を最後に表にしておく。
Kidnle(KDP) | 楽天 | |
---|---|---|
電子配信できるか | ◯ | ◯ |
対応フォーマット | ◯(独自フォーマットだが、epubからもPDFからも容易に変換可能) | ☓(epubのみ) |
AI制作 | ◯(かなりゆるい) | ☓(禁止) |
コンテンツポリシー | ◯(かなりゆるい) | ☓(厳しい) |
電子ロイヤリティ | ☓(専売しなければ実質的には35%) | ◯(一定金額以上は70%) |
紙の本のPOD対応 | ◯(公式対応) | △(サードパーティのパブファン経由なら可能) |
著者に還元されるにはどこで買えばいいですか?
購入者目線でよく聞かれる質問ですが、直販のBoothです。ここは手数料本当少ないです。
領収書回りが充実していないというのはあるかもしれませんが、Paypal経由で買えば、Paypal側で領収書発行できると思います(試していないので確証はないが、今度やってみようかな)。
次が技術書典のオンラインマーケットです。ここは手数料20%ですが、領収書出てきます。
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