PyTorchで複数のGPUで訓練するときのSync Batch Normalizationの必要性
PyTorchにはSync Batch Normalizationというレイヤーがありますが、これが通常のBatch Normzalitionと何が違うのか具体例を通じて見ていきます。また、通常のBatch Normは複数GPUでData Parallelするときにデメリットがあるのでそれも確認していきます。
目次
きっかけ
BigGANの論文を読んでいたら以下のような記述がありました。
Each model is trained on 128 to 512 cores of a Google TPUv3 Pod (Google, 2018), and computes BatchNorm statistics in G across all devices, rather than per-device as is typical.
TPUの話ですが、「デバイスごとにBatch Normlizationを計算するよりかは、すべてのデバイス間で統計量を統一したほうがいいよ」ということです。具体的な名前は出ていませんが、これはいわゆるSync Batch Normalizationといわれるものです。BigGANのPyTorchの(GPU)の実装を見ると、たしかにこれが検討されています。
BigGAN以外にも「Sync Batch Normがいい」と言われることがありますが、具体的になぜSyncのほうがいいか自分はよくわかりませんでした。この記事ではSyncかそうでないかで、具体的にどう計算結果が変わるかを見ていきたいと思います。
想定モデル
Batch Normするだけのモデルを作ります。
import torch
from torch import nn
class BNOnlyModel(nn.Module):
def __init__(self):
super().__init__()
self.bn = nn.BatchNorm1d(1)
def forward(self, inputs):
return self.bn(inputs)
モデルの入力は行列(2階テンソル)とします。shape=(batch, 1)で、やっていることはベクトルのNormalizationと同じです(Batch Normの定義上行列にしているだけ)。
CPU/GPU1枚の場合=特に関係ない
CPUで計算すると特に関係ありません。例えば入力を(0, 1, 4, 9)のように$k^2$で表される配列とします。
def cpu_ver():
model = BNOnlyModel()
x = torch.arange(4, dtype=torch.float32).view(4, 1)** 2 # [0, 1, 4, 9]
y = model(x)
print(y)
結果はただ0,1,4,9をNormalizationでならしただけになります。当たり前ですね。
# CPUの場合
tensor([[-0.5177],
[-0.3698],
[ 0.0740],
[ 0.8136]], grad_fn=<NativeBatchNormBackward>)
GPUは1枚の場合なら(DataParallelをやらなければ)関係ありません。同様に、
def single_gpu_ver():
model = BNOnlyModel().cuda()
x = torch.arange(4, dtype=torch.float32).cuda().view(4, 1)** 2
y = model(x)
print(y)
# GPU1枚の場合
tensor([[-0.6794],
[-0.4853],
[ 0.0971],
[ 1.0677]], device='cuda:0', grad_fn=<CudnnBatchNormBackward>)
CPUとGPUでスケールが若干違うのが気になるけど、Normalization自体は特におかしいところはありません。
GPU2枚以上(Data Parallel)でのBatch Normzalition
ここからが問題。ではData ParallelしたときのBatch Normってどんな挙動なんでしょうか? 先程のモデルを使えば同じようにできます。
def multi_gpu_ver():
model = BNOnlyModel().cuda()
model = nn.DataParallel(model)
x = torch.arange(4, dtype=torch.float32).cuda().view(4, 1)** 2
y = model(x)
print(y)
DataParallelを使うという複数GPUでの教科書的な書き方です。しかし、この結果はとても奇妙なことになります。
# GPU2枚でDataParallel + 通常のBatch Normの場合
tensor([[-0.9162],
[ 0.9162],
[-0.9162],
[ 0.9162]], device='cuda:0', grad_fn=<GatherBackward>)
なんと、「0, 1」と「4, 9」が別のGPUに配置されてしまったせいで、別々の平均・標準偏差でNormalizationされています。もともと2乗のデータだったのに、ジグザクな出力になってしまいデータの分布が変わってしまいました。これはおかしいです。
PyTorch公式のSync Batch Normが使えない
PyTorchには公式のSync Batch Normがあります。
詳細:https://pytorch.org/docs/stable/nn.html#syncbatchnorm
これを使えばSync Batch Normが使えるはずなのですが、ちょっと困ったことがあります。それは、DistributedDataParallel(torch.nn.parallel.DistributedDataParallel)でラップしないといけないということです。チュートリアルはこちら
DistributedDataParallelのチュートリアル:https://pytorch.org/tutorials/intermediate/ddp_tutorial.html
ただ、これはUbuntuではおそらくうまくいくと思われるのですが、Windowsではうまくいきませんでした(PyTorch v1.1.0)。関連issue。DistributedDataParallelが使えるかどうかのテストとして、
torch.distributed.is_available()
という関数があります。これを実行したところ、自分の環境では「False」が返ってきました。そしてDistributedDataParallelを実行すると初期化に失敗してしまいます。
つまり、DistributedDataParallelが使えない環境だと、PyTorch組み込みのSync Batch Normが使えないという状況が起こります。これは困りました。
サードパーティのSync Batch Norm
BigGANのリポジトリを見ていたら、Sync Batch Normは公式のものではなく以下のリポジトリを使っていました。
https://github.com/vacancy/Synchronized-BatchNorm-PyTorch
このサードパーティのSync Batch NormはDistributedDataParallelでのラップを必要としないため、何らかの理由でDistributedDataParallelが使えない環境でも使用することができます。今回はこれを使っていきます。
使い方は単純で、このリポジトリから「sync_batchnorm」のフォルダをコピーしてくるだけです。
Sync Batch Normの場合
さて話を戻しましょう。普通のBatch NormでData Parallelを使った場合、GPU別にBatch Normが計算されてしまい計算結果がおかしなことになるということを確認しました。先程のサードパーティの実装を使えば、モデル定義をそのままにしてBatch NormをSync Batch Normに変換することができます(公式のSync Batch Normでも同じことはできます)。
from sync_batchnorm import convert_model, DataParallelWithCallback
def sync_batchnorm():
model = BNOnlyModel()
model = convert_model(model).cuda() # Batch NormをSync Batch Normに変換
model = DataParallelWithCallback(model, device_ids=[0, 1]) # Data Parallel
x = torch.arange(4, dtype=torch.float32).cuda().view(-1, 1)** 2
y = model(x)
print(y)
device_idsは今GPUが2枚のものとしてやっています。この結果は以下のようになります。
# SyncBatchNorm + GPU2枚
tensor([[-0.1091],
[-0.0780],
[ 0.0156],
[ 0.1715]], device='cuda:0', grad_fn=<GatherBackward>)
(相変わらずスケールがまちまちすぎるのが気になりますが)、GPU2枚でも想定した通りの挙動になりました。Sync Batch Normが必要なのはこういうことです。つまり、Sync Batch Normを使うと、平均・標準偏差といったパラメーターがデバイス間で共通のものとして計算されているため、並列化による分布の変動がおきないということになります(これはかなり極端な例ですが)。
この例で、「DataParallelWithCallback」をコメントアウトすると次のようになります。
# DataParallelWithCallbackをコメントアウト
tensor([[-0.8537],
[-0.6098],
[ 0.1220],
[ 1.3415]], device='cuda:0', grad_fn=<CudnnBatchNormBackward>)
相変わらずスケールが謎すぎますが、GPUが1個と2個だと「grad_fn」の表記が変わるのでしょうね。
本当に並列化が効いているの?
DataParallelWithCallbackのケースでも本当に並列化が効いているのか不思議だったので、モデルを次のようにしてみました。
class BNOnlyModel(nn.Module):
def __init__(self):
super().__init__()
self.bn = nn.BatchNorm1d(1)
def forward(self, inputs):
# some heavy work
x = torch.randn(64, 1024, 64, 64).cuda()
kernel = torch.randn(1024, 1024, 25, 25).cuda()
y = F.conv2d(x, kernel)
####
return self.bn(inputs)
BatchNorm1個だけだとすぐ計算が終わってしまい、GPU使用率などの違いを確認できません。そこで、カーネルサイズ25、チャンネル数1024→1024などの意味のない巨大な畳み込み計算をモデルに入れます。さすがにこれは時間がかかるので、GPU使用率で並列化が効いているのかどうか容易に観測することができます。
計算中のELSA System Graphでのグラフはこちらです。2枚目のGPU使用率です。
確かにこれは2枚目のGPUがちゃんと動いていますね(並列化が正しく動いている)。
まとめ
- 通常のBatch NormをData Parallelですると、平均や分散がデバイス単位で計算されてしまい、ミニバッチ内のデータの分布が変わってしまう可能性がある
- Sync Batch Normを使うと、デバイス間で平均や分散を共有するため、この問題を解決することができる
- ただし、公式のSync Batch Normは環境次第で動かないケースがあるので、サードパーティでケアする
複数GPUならSync Batch Normが必須というわけではないですが、GANでは頭の片隅に入れておいて損ではないかなと思います。
Shikoan's ML Blogの中の人が運営しているサークル「じゅ~しぃ~すくりぷと」の本のご案内
技術書コーナー
「本当の実装力を身につける」ための221本ノック――
機械学習(ML)で避けて通れない数値計算ライブラリ・NumPyを、自在に活用できるようになろう。「できる」ための体系的な理解を目指します。基礎から丁寧に解説し、ディープラーニング(DL)の難しいモデルで遭遇する、NumPyの黒魔術もカバー。初心者から経験者・上級者まで楽しめる一冊です。問題を解き終わったとき、MLやDLなどの発展分野にスムーズに入っていけるでしょう。
本書の大きな特徴として、Pythonの本でありがちな「NumPyとML・DLの結合を外した」点があります。NumPyを理解するのに、MLまで理解するのは負担が大きいです。本書ではあえてこれらの内容を書いていません。行列やテンソルの理解に役立つ「従来の画像処理」をNumPyベースで深く解説・実装していきます。
しかし、問題の多くは、DLの実装で頻出の関数・処理を重点的に取り上げています。経験者なら思わず「あー」となるでしょう。関数丸暗記では自分で実装できません。「覚える関数は最小限、できる内容は無限大」の世界をぜひ体験してみてください。画像編集ソフトの処理をNumPyベースで実装する楽しさがわかるでしょう。※紙の本は電子版の特典つき
- まとめURL:https://github.com/koshian2/numpy_book
- みんなの感想:https://togetter.com/li/1641475
- A4 全176ページモノクロ / 2020年12月発行
「誰もが夢見るモザイク除去」を起点として、機械学習・ディープラーニングの基本をはじめ、GAN(敵対的生成ネットワーク)の基本や発展型、ICCV, CVPR, ECCVといった国際学会の最新論文をカバーしていく本です。
ディープラーニングの研究は発展が目覚ましく、特にGANの発展型は市販の本でほとんどカバーされていない内容です。英語の原著論文を著者がコードに落とし込み、実装を踏まえながら丁寧に解説していきます。
また、本コードは全てTensorFlow2.0(Keras)に対応し、Googleの開発した新しい機械学習向け計算デバイス・TPU(Tensor Processing Unit)をフル活用しています。Google Colaboratoryを用いた環境構築不要の演習問題もあるため、読者自ら手を動かしながら理解を深めていくことができます。
AI、機械学習、ディープラーニングの最新事情、奥深いGANの世界を知りたい方にとってぜひ手にとっていただきたい一冊となっています。持ち運びに便利な電子書籍のDLコードが付属しています。
「おもしろ同人誌バザールオンライン」で紹介されました!(14:03~) https://youtu.be/gaXkTj7T79Y?t=843
まとめURL:https://github.com/koshian2/MosaicDeeplearningBook
A4 全195ページ、カラー12ページ / 2020年3月発行
累計100万PV超の人気ブログが待望の電子化! このブログが電子書籍になって読みやすくなりました!
・1章完結のオムニバス形式
・機械学習の基本からマニアックなネタまで
・どこから読んでもOK
・何巻から読んでもOK
・短いものは2ページ、長いものは20ページ超のものも…
・通勤・通学の短い時間でもすぐ読める!
・読むのに便利な「しおり」機能つき
・全巻はA5サイズでたっぷりの「200ページオーバー」
・1冊にたっぷり30本収録。1本あたり18.3円の圧倒的コストパフォーマンス!
・文庫本感覚でお楽しみください
北海道の駅巡りコーナー
ローカル線や秘境駅、マニアックな駅に興味のある方におすすめ! 2021年に大半区間が廃線になる、北海道の日高本線の全区間・全29駅(苫小牧~様似)を記録した本です。マイカーを使わずに、公共交通機関(バス)と徒歩のみで全駅訪問を行いました。日高本線が延伸する計画のあった、襟裳岬まで様似から足を伸ばしています。代行バスと路線バスの織り成す極限の時刻表ゲームと、絶海の太平洋と馬に囲まれた日高路、日高の隠れたグルメを是非たっぷり堪能してください。A4・フルカラー・192ページのたっぷりのボリュームで、あなたも旅行気分を漫喫できること待ったなし!
見どころ:日高本線被災区間(大狩部、慶能舞川橋梁、清畠~豊郷) / 牧場に囲まれた絵笛駅 / 窓口のあっただるま駅・荻伏駅 / 汐見の戦争遺跡のトーチカ / 新冠温泉、三石温泉 / 襟裳岬
A4 全192ページフルカラー / 2020年11月発行